老後の家計を静かに削る「健康確認代」――病気ではないのに増えていく小さな出費

2026年5月31日。暦では七十二候の「麦秋至」の頃です。麦にとっての秋、つまり実りの季節です。梅雨入り前の湿った風に、少しずつ夏の気配も混じってきました。
60代になると、季節の変わり目が少し身にしみます。朝起きたときの腰の重さ、階段を上がったときの息切れ、夕方になると残る疲れ。若いころなら「寝れば治る」で済ませていたことが、今は少し気になります。
そこで増えてくるのが、私は勝手に「健康確認代」と呼んでいる出費です。
血圧計を買い替える。サプリをひとつ増やす。念のために検査を受ける。歯茎が気になって歯科へ行く。膝が心配で湿布やサポーターを買う。どれも悪いことではありません。むしろ、体を大切にする前向きな行動です。
ただ問題は、一つひとつが小さいことです。800円、1500円、3000円、5000円。単発なら大したことがないように見えます。けれど毎月積み重なると、年金生活の家計には意外な重さになります。
最近の老後資金の記事でも、60代の貯蓄額の二極化や、病気・介護費用への不安が取り上げられています。平均額だけでは見えない老後の実感があり、多くの人が「大きな医療費」を心配しています。
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60代男性は、意外と我慢強いものです。若いころから働き続け、多少の不調は顔に出さずにやってきた方も多いと思います。
その反動でしょうか。定年後や仕事を少し減らした後、急に自分の体の音が聞こえるようになります。
「念のため、買っておくか」
「一応、調べておくか」
「年齢も年齢だから、用心しておくか」
この「念のため」が、実にくせ者です。
もちろん、痛みが続く、息苦しい、急な体重減少がある、強い胸痛やしびれがある場合は、迷わず医療機関に相談すべきです。そこを節約するのは本末転倒です。
けれど、すべての不安を買い物で解決しようとすると、家計は静かに疲れていきます。健康食品を買うと安心します。新しい血圧計を買うと管理できている気になります。高めのサプリを飲むと、自分を大事にしている気持ちになります。
ところが数週間たつと、また別の不安が出てきます。今度は目、次は耳、次は睡眠、次は物忘れ。こうして「不安を消すための出費」が生活の中に定着していきます。
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退職金より先に見直したい「安心を買う習慣」
退職金をどう使うか、新NISAをどうするか、年金だけで足りるか。こうしたテーマはよく語られます。たしかに大切です。
けれど60代の暮らしでは、もっと手前にある「安心の買い方」を見直すことも必要です。All Aboutでも、60代からはお金を増やすことだけでなく、暮らしとお金を見直すことが安心への第一歩だと紹介されています。
薬局に行く前に、一度だけ立ち止まってみます。
これは治療のためか。
不安をなだめるためか。
同じようなものを家に持っていないか。
一週間後も本当に必要だと思っているか。
この4つを考えるだけで、買い物はずいぶん変わります。
おすすめは、1か月だけ「健康に関係する出費」を紙に書いてみることです。病院代、薬代、サプリ、健康食品、検査、整体、マッサージ、健康器具、栄養ドリンクまで、全部書きます。
すると金額以上に、自分が何に不安を感じているかが見えてきます。
「睡眠に関する買い物が多い」
「膝よりも、老化そのものが怖い」
「病院代より、薬局でのついで買いが多い」
「体調より、孤独な時間に不安が強くなる」
ここまで見えてくると、節約は単なる我慢ではなくなります。自分の心の整理になります。
アイランドタワークリニック 自毛植毛成約プロモーション最後に残ったレシートが教えてくれた、まさかの真実
ある夕方、私は財布の中を整理していました。
出てきたレシートは、薬局のものばかりでした。目薬、湿布、栄養ドリンク、歯間ブラシ、ビタミン剤。ひとつひとつは必要に見えます。けれど合計すると、思ったより大きな金額でした。
私は少し反省しました。年金が少ないとか、物価が高いとか、退職金をどう守るかとか、大きな話ばかり考えていたのに、自分の財布から毎週のように出ていく小さなお金には鈍感だったのです。
そのとき、最後に一枚だけ、別のレシートが出てきました。
喫茶店のレシートでした。コーヒー一杯、480円。
一瞬、「これも無駄遣いかな」と思いました。けれど日付を見て思い出しました。その日は、昔の同僚と久しぶりに会った日でした。くだらない昔話をして、病気自慢をして、年金の愚痴を言って、最後には二人で笑って帰った日です。その夜は、よく眠れました。
そこで、私は気づきました。
私が減らすべきだったのは、健康のためのお金ではありませんでした。健康になった気分だけを買うお金でした。
そして、意外にも残すべきだったのは、喫茶店の480円だったのです。
老後の健康は、サプリの棚だけにあるわけではありません。病院の待合室だけにあるわけでもありません。誰かと笑うこと、朝に少し歩くこと、旬のものを食べること、夜に不安を抱え込まないこと。そういう地味な時間の中にも、ちゃんと健康はあります。
健康確認代をゼロにする必要はありません。必要な検査や治療は大切です。ただ、財布を開く前に一度だけ考えてみたいのです。
「これは体を守るお金か。それとも、不安に払っているお金か」
60代の老後資金を守る第一歩は、投資の銘柄を探すことでも、退職金を完璧に運用することでもないのかもしれません。
案外、薬局のレシートを一枚ずつ見直すことから始まるのです。


