五月の終わり、老後資金を静かに減らす「健康確認代」という見えない出費

2026年5月30日。そろそろ梅雨の足音が聞こえてくる頃です。朝はまだ涼しいのに、昼になるとじんわり汗ばむ日も増えてきました。庭先の紫陽花が色づく前、私は毎年この時期になると、なぜか財布の中身を見直したくなります。
年金、退職金、NISA、配当金。老後のお金の話になると、どうしても大きな数字ばかりに目が向きます。けれど、60代の暮らしを実際に揺らすのは、派手な投資の失敗ではなく、毎日の小さな安心代なのではないかと思うのです。
今日取り上げたいのは、病院代そのものではありません。もっと地味で、もっと生活感のあるお金です。名づけるなら「健康確認代」です。
たとえば、血圧を測ったあとに少し不安になって買う減塩食品。テレビで見た健康番組のあとに注文するサプリ。病院帰りに「今日は頑張ったから」と寄る喫茶店。歩数を増やそうと思って買った高機能の靴下。寝つきが悪い夜に、つい追加で買う枕や入浴剤。
ひとつひとつは悪いものではありません。むしろ、体を大切にしようとする前向きな支出です。しかし、60代からの家計では、この「前向きな支出」がいちばん見えにくいのです。なぜなら、浪費に見えないからです。
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病気ではないのにお金が減る、60代の「安心買い」
60代になると、体の小さな変化に敏感になります。朝起きたときの腰の重さ、階段を上がったときの息切れ、夜中に一度目が覚めること、去年より疲れが抜けにくいこと。
若い頃なら「まあそんな日もある」で済ませていたことが、「これは何かの前触れではないか」と思えてきます。
その不安を消すために、私たちは買い物をします。薬ではなく、安心を買っているのです。
ドラッグストアで買う湿布、栄養ドリンク、サプリ、目薬、歯間ブラシ、減塩しょうゆ、膝に良いと聞いたサポーター。さらに、通院帰りの昼食代、検査結果が良かった日のご褒美コーヒー、少し数値が悪かった日の気晴らしの甘いもの。
どれも一つずつ見れば、数百円から数千円です。怖いのは、本人の中では全部「必要経費」になっていることです。
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退職金をどう運用するか。新NISAをどう使うか。高配当株を買うか、投資信託にするか。こうした話は、たしかに大切です。
けれど、家計の現場では、もっと手前に見るべきものがあります。それは、レシートです。
レシートには、その人が何に不安を感じ、何で自分をなだめているかが静かに出ます。おすすめは、健康に関する支出を「医療費」と「安心費」に分けることです。
医師の診察、処方薬、必要な検査、治療に関わるものは医療費です。一方で、サプリ、健康食品、健康グッズ、なんとなく買った栄養ドリンク、検査帰りのご褒美などは安心費です。
安心費が悪いわけではありません。問題は、上限を決めないことです。不安な日は、いくらでもあります。そのたびに安心を買っていたら、財布は静かに軽くなっていきます。
たとえば、月に5,000円だけ「健康安心費」として封筒に分けておく。サプリも健康グッズも、病院帰りのコーヒーもその中から出す。これだけで、健康意識を失わずに、家計の暴走を防げます。
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ある朝、私はいつものように血圧を測りました。上が少し高く出ました。もう一度測っても、やはり高めです。
その日、私は散歩のついでにドラッグストアへ寄りました。減塩みそ汁、健康茶、サプリ、血圧手帳、ついでに膝用のサポーターまで買いました。
帰りに喫茶店へ寄り、ホットコーヒーを飲みながら、袋いっぱいの商品を見て「これで少し安心だ」と思いました。
ところが、家に帰ってレシートを見ると、思ったより高いのです。金額そのものよりも、自分が不安を消すために、こんなにも簡単にお金を使ったことに驚きました。
翌朝から一週間、健康食品もサプリも追加で買わず、ただ早く寝て、朝に散歩をして、塩分を少し控え、体重と血圧を同じ時間に記録しました。
お金はほとんど使いませんでした。使ったのは、歩く時間と、台所に立つ少しの手間だけです。
一週間後、血圧が劇的に下がったわけではありません。体が若返ったわけでもありません。けれど、不思議なことに、不安は少し小さくなっていました。
ここで、少しびっくりする話があります。
私が一番無駄にしていた「健康確認代」は、サプリ代でも、健康茶代でも、病院帰りのコーヒー代でもありませんでした。
本当に高かったのは、「不安になったら、すぐ何かを買えばいい」と思い込んでいた心のクセでした。
老後資金を守る第一歩は、投資アプリを開くことではなく、レシートを一枚見直すことなのかもしれません。そして、不安な自分を買い物で黙らせず、「まあ、今日は少し歩いてみるか」と声をかけることなのかもしれません。



